★国立劇場
2022/05/20、国立劇場小劇場に文楽を観に行きました。前回国立劇場を訪れたのは、2019/02/10のこと。その後、コロナ禍となり、公演が中止となる期間も長く、コロナ禍も未だに収束してはいません。国立劇場も3年ぶりです。
演目は『競伊勢物語(はでくらべ いせものがたり)』です。1775年(安永4年)が初演。文楽の演目が歌舞伎になった例が数多くありますが、歌舞伎が文楽の演目になった非常にめずらしいケースの作品です。奈河環亀輔作。この作者も知りません。国立劇場で上演されるのは35年ぶりとのこと。非常にめずらしい作品で興味を持ちました。
1775年と言えば、モーツァルトがオペラを書いていた時代と重なります。翌日、新国立劇場で見たグルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』は1770年の初演。ちなみにモーツァルトの『フィガロの結婚』は1786年の作品ながらボーマルシェの原作は1775年の作。殆ど同時代、ヨーロッパでは『フィガロの結婚』が、日本ではこの作品『競伊勢物語』に限らず、文楽/歌舞伎の代表作『妹背山婦女庭訓』(1771、近松半二他合作)『新版歌祭文』(1780、近松半二作)などが作られています。
『競伊勢物語』は率直な感想、あまり出来のよい演目とは言いかねます。父親が実の娘とその夫を殺害するという「とんでも」物語。在原業平と『伊勢物語』をダシにいくら何でもこの話はないでしょうというとんでもない話です。
モーツァルトの時代、まだ貴族社会の時代ながら、市民の姿を生き生きと劇の中で描いた『フィガロ』とは全く対蹠的に、忠儀のため自分の子供を身代わりに殺害することを忠儀の誉とするとんでもない劇を大衆に提供していた日本社会との著しい意識格差にはいつものことながら驚かざるを得ません。もしかするとその意識は現代の日本人においてすらまだあるのではないかと、あまりにも変わりにくい社会意識、人の意識におぞましさを感じます。
私には3年ぶりの文楽公演でしたが、おそらくはコロナ禍の影響でチケットが完売しておらず、おかげで比較的よい座席を確保して鑑賞することができました。観客の多くが年長者であることも拍車をかけています。普通の日々が戻ることを願います。
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